
中国の主要自動車メーカー16社は2025年6月10日、一斉にサプライヤーへの支払期限を「納品後60日以内」に統一、徹底することを発表した。広汽、一汽、BYD、奇瑞(Chery)、長城、小鵬(Xpeng)、吉利(Geely)、長安、東風、蔚来(NIO)、シャオミ、上汽など、国有・民間・新興問わず多くのOEMが参加したこの動きは、改正された「中小企業への支払い保証条例」の施行を受けたもの。業界の健全性を取り戻す第一歩として注目を集めている。
これまで中国の自動車産業では、長期の支払期限による中小サプライヤーへの圧迫が常態化していた。2024年時点で、国内メーカーの支払回転日数は平均182日に達し、フォルクスワーゲン(41日)やトヨタ(約55日)といった国際的なOEMと比べても約2~3倍という異常な状況にあった。とりわけ資金力の乏しいTier 2~Tier 3の川上企業にとって、これは死活問題であり、すでに無言のうちに撤退・自然消滅する例も少なくない。何とか代替を見つけ取り繕っていける、という点では、中国流の柔軟さだが、今後もそれが可能なのかどうかは不明。
今回の60日拘束は、中国自動車業界に存在する過剰な内部競争と消耗「巻き」状態からの脱却を目指す試みだ。しかし、その実効性には業界内外から早くも疑問も呈されている。最大の懸念は、支払の起点が「納品後」ではなく実質的に「請求書発行後」になると見込まれる点だ。納品後、検収を経て、請求書発行以来といった事前手続きが意図的に引き延ばされれば、60日の期限は空文化する恐れがある。さらに、長期の商業手形を使えば「表面上は60日、実質は150日以上」といった“帳簿上の合法”も可能だ。
また、たとえTier 1に対して60日での支払いが徹底されたとしても、それより上流の中小零細企業にまで資金が届くとは限らない。支払いは階層を経るごとに後ろ倒しされやすく、最上流の素材や部品メーカーには依然として長期の資金滞留が発生する。つまり、業界全体の「資金の血流」を改善するには、単一の取り組みだけでは不十分なのである。今回のOEMによる宣誓はこれを第一歩とし、次はTier 1、次はTier 2、3と順次宣誓を行っていくこと。そしてそのサプライチェーン全体が宣誓を順守しているのかを常時監視する仕組みも必要になってくる。あるいは、OEMが責任を持ち、すべてのサプライチェーンに対して支払期限の徹底を求め、これをデジタル的に処理、見える化する、という手法も考えられる。それを行えば、中国での称賛を得られる、という形になれば、シャオミなど新興の新興はすぐにでも取り組めそうな気がする。
それは、いくつかの企業は改革に向けた具体策を進めていることでも分かる。たとえば長安は商業手形の使用を全面禁止し、現金や信用状による支払いを明文化。BYDは「ホワイトリスト制度」を設け、信用あるサプライヤーに対し前払いや即時決済を行う仕組みを導入した。またGeelyはIoTを活用した即時検収システムの実証を進め、契約・支払プロセスの電子化にも注力している。さらに業界団体や規制当局も、支払の健全性を「ESG評価」や「サプライチェーン健全指数」として見える化する方向で検討を進めている。悪質な遅延企業には破産清算の加速、信用格付けの低下などのペナルティも現実味を帯びてきた。
とはいえ、これらの改革はまだ始まったばかりであり、真に構造的な変革を実現するには、業界全体の透明性と責任感、そして監督機関の厳格な運用が不可欠である。支払期限の短縮は単なる事務的な改善ではなく、サプライチェーン全体における「信頼と共存」の再構築であり、ひいては中国自動車産業の競争力そのものを左右する基盤の問題でもある。「60日」の約束が、風に舞うスローガンで終わるか、それとも産業構造の転換点となるか。その答えは、今後の行動と継続性にかかっている。
