
AIチップ地平線(Horizon Robotics)は2025年4月19日、自社初となる都市部運転支援向けフルスタックソリューション「HSD(Horizon Super Drive)」を正式に発表した。これは同社が長年にわたり掲げてきた「ソフト・ハード一体化」技術哲学に基づき開発された自動運転レベル2(L2)の運転支援システムであり、都市部における人間らしい運転体験とユーザーの高い信頼性を両立することを目指す。HSDは三階層構成となっており、300/600/1200の各モデルが順にエントリー・中性能・高性能帯に対応し、普及モデルから高級EVまで幅広く適応可能となっている。
技術的には、HSD 300はルールベースとモジュラー型アーキテクチャを中心とし、コスト効率と機能性のバランスを重視する。一方、HSD 600およびHSD 1200は、地平線がこれまで開発してきたE2E(エンド・ツー・エンド)型の認知・行動モデルを部分的あるいは中核的に組み込み、高度な判断・予測機能を実現している。特に上位モデルでは、マップレスの都市部支援や記憶走行、複雑な交差点での制御も視野に入る。
このHSDが最初に適用されるのが、奇瑞(Chery)が構築を発表したスマートドライビング戦略「ファルコン」である。ファルコンもまた三階層構成を採り、500/700/900の各モデルが、HSDの300/600/1200と機能的に整合している。この明確な階層対応により、Cheryはブランド横断での技術統一を図りつつ、異なる価格帯・セグメントの車種に最適なスマートドライビング体験を提供する戦略を取る模様。HSDは「Horizon Cell」という弾倉型の構造を持ち、将来的なハードウェアの差し替えやソフトウェアのOTAによる拡張にも対応しており、Cheryのこの方面に柔軟性を持たせる。
注目すべきは、Cheryがこの分野において地平線への依存を強めている点である。現時点で、CheryファルコンにおけるADASシステムの供給は、事実上地平線が唯一となっており、他社競合を排した形での戦略的提携に踏み切ったと見られる。この動きは、同じくスマートドライビング領域を志向していたWeRide(文遠知行)にとっては逆風。WeRideはこれまで主にロボタクシー領域での実績を重ねてきたが、ADAS市場においては主だったOEMとの協業がCheryのみであり、HSDの急速な量産・普及により同社の市場参入はさらに困難になると予測される。
さらに、HSDの応用範囲はCheryにとどまらない。地平線とVW中国は、2023年に合弁会社「CARIZON(酷睿程)」を設立し、中国市場向けに特化したスマートドライビングプラットフォームを共同開発している。先日も両者は協業深化を発表したばかりで、その技術的ベースとして、地平線が展開するHSDをカスタマイズした構成が採用される見通し。2026年以降は一汽VWや上汽VWなどの中国合弁モデルに搭載される計画が進行中だと考えられる。
このように、HSDはCheryという現実の量産案件を足掛かりにしつつ、今後はVW中国との共同開発にも展開される見込み。地平線にとって中国ADAS市場での覇権獲得に向けた重要な突破口となっている。一方、WeRideのようなロボタクシー起点のプレイヤーにとっては、スケール・商用化・パートナーシップの各面で地平線との競争が一層厳しくなると見られ、事業ポジションの再定義が迫られる可能性が高い。この分野は地平線の他、OEM自社開発を除いても、ファーウェイ、Momentaなど供給型も多く、激戦が繰り広げられている。
